伊藤ゴロー / GLASHAUS ★
2012.07.17 Tuesday
この音楽が届いた瞬間、ぼくはとおい入道雲をみた。
この音楽が届いた瞬間、ぼくは芭蕉の一句を詠んだ。
そしてぼくは、ちょっとセンチメンタルになった。
この春発表された伊藤ゴロー氏のソロ・アルバム『 GLASHAUS 』は夏の風景がよく似合う。せわしく啼く蝉の声と、夕暮れ時の西日を浴びた入道雲の静かな夏の憧憬。そしてぼくには芭蕉の有名な一句が浮かんできた。「閑さや岩にしみ入る蝉の声」。
淡々と、そして精緻な素描のように爪弾かれるゴローさんのギター、そこにJaques Morelenbaum(cello)、Andre Mehemari(piano)、Marcos Nimrichter(piano)、Jorge Helder(bass)、Bernardo Besseler(violin)等名うてのブラジル人ミュージシャンたちが、上品な色彩を添えていく。そのキャンバスに描かれた作品には「ブラジルらしさ」というよりはむしろ、日本的な情緒が垣間見えてくるから不思議だ。スタティックでドラマティック。まるで行間を読むようなゆったりとしたテンポのなかで、ぼくはちょっと感傷的になってしまった。
ボサノヴァからポップ〜ロックまで、その柔らかな物腰で表現してきたゴローさん。
本作はその流れからすれば意外かもしれないが、ぼくにはとても腑に落ちるものだった。
そしてまったく個人的な思い入れなのだが、本作はDISCTRANSへのオマージュのような気がしてならい。
ゴローさんが駆けつけてくれた2008年暮のサウダーヂ・エンタテインメント主催によるDISCTRANS閉店イヴェント『WONDERFUL "DISC TRANS" WORLD』で急遽参加していただいた際、確か最後に購入していただいたのがAndré Mehmari「...de arvores e valsas」だった。そして2010年、André Mehmariの岡山公演とNAOMI & GORO & 菊地成孔「Calendula」でのAndré Mehmariの参加。ぼくのなかでその点が線となり、その延長線上に本作が届いたのである。
そしてある打ち上げ(「秋は夕暮れ」だったか)でDJをさせていただいた時、Mauro Refoscoの「Seven Waves - Sete Ondas」に真っ先に反応したのもゴローさんだった。そのアルバムと本作のニュアンスの似ているところをあげるとするならば、曖昧だが「どこか遠くを見つめている」音楽ということだろうか。それはぼくのなかでは入道雲だったり、遥か遠い地だったり、DISCTRANSだったりする...
そして夏を告げる蝉の声と雲を見つめながら、本作を聴いている。
GLASHAUS 特設サイト: http://www.goroito-glashaus.com/